時空の路ヒルクライムin会津

5月24日早朝、我々針道駆楽部「山岳班」の面々は、まだ夜が明け切らぬ針道を出発し、一路会津美里町のレース会場へと向かった。
参加メンバーは、BIRD、キクリン、トルシエ、ヤバシの4名に加え、今大会入賞の期待がかかる川俣の強豪クライマー・ジーコA斎君も、我が駆楽部からの参戦。心強い味方となった。
道中は非常にスムーズで、受付開始時間のAM6:00前には会場に到着。受付を済ませると、早速ウォーミングアップの準備に入る。
ここまでは非常に順調。
ローラー台のセットも済み、着替えを始めたその瞬間、私は重大な忘れ物に気付く。
「半袖ジャージがない!」
この日のためにタイヤまでオレンジにそろえ、上から下まで完璧なコーディネイトをしたはずだったのに、肝心のジャージを忘れるとは。
幸いトルシエ氏が予備のジャージを持っていたので、それを借りて出走することにしたのだが、これが不幸の始まりになるとは、そのときは誰も気付かなかった。
初参加のキクリン・トルシエ両氏と、現地で合流したタイコー君も誘い、スタートから2~3kmの平坦区間を試走に出た。
私が知ったかぶりをしながらゆっくりと前を行き、登り始めの地点まで来て後ろを振り返ると、なぜかタイコー君しかいない。
「パンクか?」嫌な予感がよぎったが、少し待つと2人が到着。なんでもトルシエ氏の前輪から異音がするらしい。
道端でホイールを外し、少し調べてみると、どうもハブがおかしい模様。数週間前から少し前兆もあった、とのことだった。
駐車場に戻ると、隣に車を停めていた熟年ライダーの2人が心配して声を掛けてきた。
しばらくホイールをいじった後、「こりゃあだめだな。」と一言。
ちょっとガッカリしていると、「こっちにスペアがあっから、貸してやるよ。」というありがたいお言葉が!
ご好意に甘えて着用し、トルシエ氏のバイクは思わぬグレードアップとなったのだった。
ここからはローラー台で一気に追い込み開始。
5人が並んでローラー台でアップする姿はまさに壮観!とても針道駆楽部とは思えない本格派振りだった。ちょっと感動…。
(この間に実はキクリンのプチ転倒もあったが…)小さなアクシデントを物ともせず、いざ決戦のスタートラインへ!!という予定だったのだが…。
アップを終え、キクリン・トルシエジーコの3氏は下山用の荷物を本部へと預けに行く。
私は戻ってくるのが面倒だったので、すっかり走れる格好で荷物を持ち、本部へと向かったのだった。
これが間違いの元。
緊急で借りたジャージにはバックポケットがなく、車のキーを入れられなかったため、リュックに突っ込んで本部に預けた。
開会式の整列も始まろうかというそのとき、トルシエ氏が駆け込んできた。
「鍵、鍵!!」
あ、そうか、トルシエ氏の荷物はまだ車の中だったのか!ヘルメットもシューズもつけていないではないか…。
慌てて預かり所へ走るが、もはや跡形もない。
本部の係の人に聞くと、もう山頂へ出発してしまったとのこと。事情を説明したのだが、「交通規制がかかるので行くことも帰ることもできないし、第一スタート時間に間に
合わない。」という厳しい答えが返ってきた。
愕然とする私たち。
私はあきらめ、「俺のヘルメット渡すから、靴はスニーカーだけど、なんとかスタートしてよ。」とトルシエ氏に頼んだ。
だが彼はあきらめなかった。
再び係員のところへ行くと、「何とかなりませんか!」と熱く懇願する。すると係の人が2~3人、本部の役員のところへ相談に行ってくれた。
開会式が始まる中、我々がもう一度事情を説明すると、役員の方が無線でゴール地点と話し始める。
しばらくのやり取りのあと、「その荷物を探しておくから、バイクで取りに来てくれ。」と無線が帰ってきた。
ありがたい!だがバイクなどあるのか?
誰かが「報道のバイクさ頼めばいいべ!」と言い、係の方が走ると、腕に「報道」の腕章をつけたライダースーツの男性を連れてきた。
ライダーは少し戸惑った様子だったが、「分かりました。その荷物をここまで持ってくればいいんですね?」と引き受けてくれたのだ。
爆音がとどろき、あっという間に山のほうへと遠ざかった。
あとは時間との戦い。スタート時刻は刻一刻と迫っている…。
役員の方が1分と間を空けずに無線で確認する。
「バイクが通過したら教えてくれよ」
「まだか?」
その傍らで、私たち2人はただ謝るばかり。
しかし彼らは我々を責めるどころか、「せっかく来たんだから、走りてぇよなぁ。」などと言って気遣ってくれた。
交通を規制する側の警察のお偉いさんまでも、「ちょっとくらい(スタートを)待っててやればいいんでねぇの?」と温かい言葉。
ありがたいやら申し訳ないやらで、なんともいたたまれない気持ちだった。
すると、「ハイ、今バイク下山しました~!」と無線の声。
何とか間に合いそうだ。走れる!
既に何組かのグループが次々とスタートを切っている中、バイクの爆音が返ってきた。急いでリュックを貰い受け、車へ走る。
準備完了!本部テントにお礼を言いながらスタート地点へ。幸運にもトルシエ氏・キクリン氏のグループはまだスタート前。私もそこから一緒にスタートさせてもらった。
合図が鳴りスタートを切る。
本部テント横を通り過ぎる私たちに「頑張ってこいよー!!」の声がかかる。
「ありがとうございましたー!!」と高らかに返事をし、我々2人は無事スタートラインを切ったのだった。
今日ほど人の情をありがたいと思った日はない。
見ず知らずの私たちにホイールをさし出してくれたおじさんたち。
とんでもない無理なお願いを聞き入れてくれた大会スタッフの方々。
仕事に支障をきたすかもしれないのに、わざわざ走ってくれた報道のライダーさん。
その明らかなスピード超過を、聞こえなかったことにしてくれたK察の皆さん。
ありとあらゆる人達のおかげで、我々はレースを完走することができた。
ありがとう会津!ありがとう「時空の路ヒルクライム」!!
この感激をいつか、お世話になったあの人達のために…。

(BIRD記者)