会津路凸凹珍道中②

選手が帰り、後片付けが進む休憩所を横目に見ながら、オレンジジャージの5人はダム湖のほとりを進みます。標高が高いだけあって、周囲にはまだ山桜が花吹雪を散らしながら佇んでいました。
急で短い下り坂が終わると、そこはもう大内宿。驚くほど近いところにあったんですね。観光客の車でごった返す駐車場を尻目に集落の入り口に自転車を停め、いよいよ散策の開始です。
大内宿は会津と日光を結ぶ街道筋に設けられた宿場町で、明治~昭和にかけての戦火を逃れられたことや、戦後の道路開発から取り残されたことなどが重なって、昔ながらの家並みが残されたということです。
茅葺き屋根の家々が連なるメインストリートを進んでいくと、家並みの間から見えるのは後ろにそびえる低い山々と青い空だけ。本当にタイムスリップしてしまったかのような錯覚に陥ります。そんな情緒たっぷりの空間を騒々しく闊歩するオレンジ色の集団。観光客の皆さんからは珍奇の眼差しで見られ、土産屋のおじさんおばさんからは「ヒルクライムどうだった?」などと声をかけられます。一人で歩いていたら、間違いなく変態扱いだったでしょう。
土産屋の店先で金つばを買うと、「そこに掛けてお茶飲んでいがっせ。」とありがたいお言葉。ひと時の憩いを味わいながらカロリー補給です。
するとどこの店先でもこれまた珍奇な光景が。老若男女を問わず、皆そばを箸でなく「ねぎ」で食っているではありませんか。この辺の風習なのかと思い仲良くなった売り子のおばちゃんに尋ねてみると、あるお店で始めたものが最近TVで取り上げられ、いつの間にか広まったとか。「なんだ、作られたブームか」と冷めた目で見ていると、若いカップルが向かい合い、ねぎでそばを食う様子がなんとも微笑ましく感じられました。
事前にJOEさんから「ますや」があると教えられていたので、探し出して記念撮影などをして、大内宿を後にしました。
ここからは下り基調の快適サイクリング、と思いきや、結構下りに斜度があります。後続を気にしながら下っていると、追い越す車の窓からおばさんが「後ろの人転んでたわよ!」と声を掛けてくれました。一目散に戻ってみると、クロちゃんがK太の顔をタオルで抑えています。「どうした?」と声をかけると、ブレーキングでタイヤがロックし、そのまま壁面(それも崩落防止の鉄骨!)に顔面から突っ込んだというのです。数年前のツーリングと同じ状況に、あのときの悪夢が蘇ります。
車に戻りたくとも場所が場所。戻るにも行くにも距離があります。様々な手段を検討しましたが、結局行くほかあるまいということに。顔面の傷は思ったより浅く、出血も止まったようです。K太自身も大丈夫だというので、スローペースで再スタートを切ることとなりました。
いや~、焦った焦った。クロちゃんの適切な応急処置のおかげで、大事にならずにすみました。
あとはそれほどの難所もなく無事到着、といきたいところでしたが、芦ノ牧温泉手前のR118を迂回するダム道路が土砂崩れで通行止め。地元の人たちに聞いても、通れそうもないとのことだったのです。そうなれば交通量の多い国道のトンネルを3つも通らねばならず、どう考えても危険この上ない状況です。行くも地獄、戻るも地獄。とにかく行けるところまで行こうと腹を決め、ダム湖へと向かいました。
我々の憂鬱な気持ちをよそに、ダム湖は晴れ渡る空を映して青々と輝いています。万全の状態でのツーリングだったら、どれだけ心地よかったことか…。大きな橋を渡り、多少のアップダウンを繰り返しながら進んでいくと、やはり迂回路を示す看板が出てきました。表示に従いダムサイトの細い道を抜けると、R118に再合流するという道筋でした。
しかし残すトンネルがあと1つ。悩んだ結果自転車を降り、歩道を押して歩くという選択肢をとりました。時間はかかりましたが、やはり安全が第一。中の車道は路肩がほとんどなく、最良の選択だったと言えるでしょう。
最後の難関を越え、そこからは旧道を通りながら芦ノ牧温泉街を通過。振り向けばK太がだいぶ辛そうです。「どうだ?」と尋ねると、転倒時に打った腰と首が痛むとのこと。「顔は?」というと「なんともない」と。どう見ても擦り傷が痛々しいのですが、大丈夫だという返事でした。奇跡の回復力、K太恐るべし…。
心身共に疲れ果てた一行は最後の気力を振り絞り、ジャンゴ氏が熱望した某有名ラーメン店に向かったのですが、到着した時点で閉店時間にギリギリで間に合わず。我々はショックのあまり、「うちは3時で終わりなんですよぉ」と言う店主に、「まだ2時56分ですけど…」の一言を言う気力がありませんでした。あぁ、ガックリ。
最後の数キロは全くの平坦路でありながら、雄大会津盆地の景色を眺める余裕もなく、ヘトヘトになりながらなんとかゴール。走行距離数50kmあまりとは思えない疲労感を味わうことができました。
そんなこんなで盛りだくさんだった1日。レースあり、観光あり、ハプニングありで、終わってみれば大充実のサイクリングでした。
針道に戻ってからのミニ祝勝会も、人数は少ないながら大盛況。見事入賞を果たしたRUN選手、本当におめでとう!そしてK太、お大事に…。
針道駆楽部は、これからも自転車を通じて、オヤジ達の健全(?)な遊び場を提供し続けていきたいと思います。
<完>

(BIRD記者)